オリジナル創作・青春センセーション!の18話になります。


この作品はオリジナル創作です。
オリジナル要素が大丈夫な方だけ追記からどうぞ!


ある春の日、俺はこの人達と出会った。青春部に――。


「自分を…卑下しないで…自信を持って…走ってほしいんです…!」


前回に引き続き「探し物篇」です。
シューズ捜索大作戦!!


▽以下オリジナル創作を含みますので注意してくださいね。




今までのあらすじ by諏訪野葉月

部活動に特化した全寮制の私立高校・蒼響学園。
そんな学園に青春を謳歌するため設立された『青春部』という部がありました。
蒼響学園の中でも規模小さいが人気と信頼を持たれている『青春部』。
そんな青春部の廃部の危機に、一年生の小鳥遊蓮くんと春日野美桜さんが入部し、
無事に廃部は免れ、いつも通りの活動を再開したんだって。

そんな青春部のお預かりである謳歌部。
謳歌部部長の陸くんはお預かりになる事でのメリットのひとつ…
青春部との部活共有を断る事に。謳歌部も何か考えていたりするのかな?

謳歌部とも和解した青春部にとある依頼人がやってきた。
それは一年一組の陸上部所属の一年生エース…御子柴華乃さんだった。
彼女の依頼は"盗まれたシューズを探してほしい"というもの。

青春部はこの依頼を解決する事が出来るのか?
これは見物だね、皆どうやってこの事件を解決するのかな?





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




「御子柴さん。一年なのに次の短距離100mの代表で試合に出るんだってよ?」

「えぇ!?私その100m狙ってたんだけどな…なんで一年なのに選ばれてんの、あいつ」

「うちの学園が実力主義だからって言って…調子乗ってるよね」

「三年に譲れって話だよねぇ」



部活動実力主義のこの蒼響学園に入学した事でこうなる事はある程度予想していた。
中学に入って陸上部に所属した時からずっと私はエースで…足が速い事が私の自慢でもあった。

その結果、もっと陸上を極めたいから…高校進学では迷いなくこの蒼響学園を選んだのだけど…

私の事をよく思わない先輩達が増えていっている事は分かっていた。
でもそんな事で一々落ち込んではいられない。
私は走る事で私の実力を証明しよう。
そう思いこの一ヶ月走り続けていた。

いつか先輩達に私の本気を分かってもらえるって信じて――。



『華乃。蒼響学園入学おめでとう。受験勉強よく頑張ったな』

『ありがとう、お父さん。えへへ…私、頑張ったよ!』

『そうだな…お前が寮生活で家から離れるのは寂しいが…父さんと母さんはお前を応援してるからな』

『うんっ!ありがと!!』

『それで…これは入学祝いだ』

『え?』



蒼響学園の受験に合格し、寮生活のため荷造りをしていたある日の事。
お父さんが入学祝いとして私にとあるものを差し出した。



『……陸上用のシューズ?』

『ああ。何か贈ろうか考えたんだがやはり華乃と言えば陸上だしな。
 これでまた陸上のトップを目指すんだぞ?』

『……あ、ありがとうお父さんっ!大切に使うね!!』



盗まれたシューズ。
それは私にとって大切なもので…離れて暮らしているお父さんと繋がっている証のようなものだった。

なくなったら新しいのを買えばいい。
他のシューズだったらそう思えたかもだけど…これだけは、そうは思えなかった。

最後の頼みである青春部…
私は勇気を出して、青春部の皆さんに依頼を頼んだのでした。

"なくしたシューズを探すのを手伝ってください"と――。





*18話「青春捜索大作戦!」





静まり返った青春部の部室。
集まった青春部五人と依頼人である御子柴さん。
"盗まれた"御子柴さんのシューズを探すため…まずは作戦会議を始めるという事になったのだが…
やはり、話し合いは行き詰まっていた――。

そんな空間を壊すように朔さんが御子柴さんに向けて口を開く。



「もう一度聞くけど、どこかに置き忘れたとかはないんだよね?」

「うぃっす。確かに一昨日、帰る前にロッカーに入れた記憶があるので…」

「ならやはり盗まれたという確率の方が高いのかな?」

「「「うーん…」」」



悩み込んでしまう先輩三人組。
相方役に立つのか立たないのか…?分からない人達だ。

更に次に御子柴さんに質問したのは周さんだった。



「じゃあ華乃ちゃんは誰かに恨まれた事がある…とかないの?」

「恨み…ですか?」

「そうそう恨み」

「……うーん?」



少し苦い顔をするもどうやらこれもぴったり当てはまるような問題ではないようだ。
思い当たる節がない…俺達が行き詰まりかけたその時――。



「あーーーーー!!」

「「「「!?」」」」

「何?晃介。うるさいよ」



いきなり晃さんが声を荒らげた。静まり返っていた部室に響き渡るくらいの大声で。
しかもすっごくうるさいし…。



「あのさ、あのさ。おれ聞いたんだ…最近な、色んな部で備品とかがなくなる事件が多発してるって…」

「え?」

「勝手になくなってるって事?でもそんな心霊現象みたいな事ってあるわけないでしょ?晃ちゃん」

「おれだって本気に信じてる訳じゃないって。ただそんな話を聞いた事があるってだけで…それで…それがねー…」



必死に弁明する晃さんに朔さんが一応、一応だけど口を挟んでみる事になった。



「…で、その物が無くなる事件って犯人とかは分かってるの?」

「うんっ!」

「「え!?」」



まさかの晃さんからの即答に朔さんと周さんと俺から同時に思わず疑問の声が出てしまう。
そして返ってきた答えは驚くべき内容だった。



「この蒼響学園にある変な部活動…おれはそいつらが怪しいと睨んでる!」

「青春部も十分に怪しい部活動だと俺は思いますがね…」

「おれが怪しいと思うのはサバイバル部、掃除部、奉公部、学園探索部だと思うんだけど。どう!?」

「…俺の発言スルーしましたね?」



自分達の部である青春部も結構な程怪しく変な部活動だと思うのだが…
そこは本人達はそうは思ってはいないらしい。

そんな晃さんの主張に周さんが乗っかってくる。



「うーん聞いた事ない部が多いかも…」

「おれもよくわかんないけど聞いた事あるのはサバイバル部かな。
 名前からして気になったから友達から聞いたりしてみたんだけど、
 よく他の部の備品を盗んだりしてるみたい。
 おれもこの部についてはよく分かってないけど…。
 もしかしたら御子柴ちゃんのシューズを盗んだ犯人が、
 そういう目的で盗んだりしてたら?」



サバイバル部。俺もこの部の事が少し聞いた事がある。
この蒼響学園にある意味不明な部活のひとつだ。
そういえば入学した頃にあった部活紹介の時も異彩を放ってたしな…。
というか部の名前や内容についてはこの青春部も大概だと思う。

"サバイバル部"という名前通り、
色々とサバイバルに関係あるようなミッション的な事をやってるとか?
俺はよく分からないけど…もしかしてそいつらが犯人なのか…?

晃さんのが言い放ったサバイバル部による備品盗みの件を聞いた朔さんがなんと反応した。



「そのサバイバル部が部の備品などを奪ってる…と。
 これは高比良先輩に報告しないといけないよね」

「高比良先輩は知ってるみたいだぜ?生徒会にある危険な部活一覧表にサバイバル部の名前あったし」

「そりゃ勝手に部の備品盗んでいかれたらねぇ…窃盗だもん。それ」

「……ってか何でそのサバイバル部?は他の部の備品盗んでんですか?」

「さぁ?でも、それじゃあサバイバル部の事は高比良先輩はもう知ってるって事か…」



どうしたらサバイバル部という部は聞いた限り滅茶苦茶な部のようだ。
と、ここまでの話を聞いた限りだけど…。



「(改めて考えてみても…一番犯人の可能性があるのってそんな怪しい活動をしてる部…だよな)」



俺は考え込む。
目撃情報とかも探した方がいいと思うし…でもこの学園の事だ。
名前が上がった部以外にも意味不明な理由から色々な事をやらかしている所もあるかもしれない。
これは手分けして色々な部に掛け合ってみたり行動した方がいいのではないか?

俺は思い切って先輩達に話を切り出してみる事にした。



「あの…じゃあ今日は色々な部に話を聞いてみる組と、
 学園中でシューズ探してみる組に別れて行動するっていうのは…どうですか?」

「「「え?」」」

「先程上がった謎の部活をそれぞれ巡ってみて、話を一応聞いてみた方がいいと思うんです。
 怪しい事やってるなら尚更生徒会にも報告しておいた方がいいと思うし…」

「蓮!!!!」

「�狽、!?はいっ!?」

「うん、いい案だよ!!!それいい案!!!!」

「あ…は、はい…。ありがとうございます…」



晃さんが凄い勢いで俺を褒めちぎる。
そ、そんなにいい案だったんだろうか…?

今日の行動方針が決まったという事で…まずは誰が何をするかなのだけど…。



「あ、あの皆さんっ!」



御子柴さんがいきなり大きな声で俺達に声を掛けてきた。



「えと…よろしくお願いしますっ。私にとってあのシューズは凄く大切なものだったので」

「大切なもの?」

「はい。実は…」



元気で明るい御子柴さんが顔を曇らせている。
少し寂しそうな顔をした御子柴さんはゆっくり語りだした。



「実はですね、あのシューズ。
 離婚して離れて暮らしてるお父さんからのプレゼントだったんです。
 高校に入学した時に…お祝いで貰って…陸上頑張りなさいって」

「そっか。それで…絶対探し出したいんだね」

「はい。これが他のシューズだったら諦めるけど…。
 これだけは…お父さんからの贈り物だったから、絶対探し出したくて…」

「御子柴ちゃん…」

「華乃ちゃん…」

「はいっ?なんでしょう、不知火先輩と、有栖川先輩?」

「「絶対シューズ見つけ出そうね!!」」

「はいっ!こちらこそよろしくお願いしますっ!!」



離れて暮らしている父親からの贈り物…。
それは絶対に御子柴さんの元に戻って来なければいけない物だと思う。
というか…御子柴さんの両親って、離婚してたんだな…。

元気よく先輩達に接する姿を見ていると悩みなんか無縁のように見えるのに。
人を見かけだけで判断してはいけないって事…だよな。反省しなければ。



「あ、あの…」

「ん?どうしたのみーちゃん?」



俺が脳内反省会を開いていたその時、
またずっと黙っていた春ちゃんが御子柴さんに話しかけていた。



「あの…わたしも頑張って見つけ出します。御子柴さんの大切なシューズ。
 だから…だから…。気を落とさないでください…」

「みーちゃん…ありがとっ!みーちゃんってやっぱりいい子だね」

「えぇっ!?そ、そうですか…?」

「うんうんっ!」



あの春ちゃんが同学年の女の子と会話をしている!
そんなシーンは初めて見た。相手が御子柴さんなのも良かったのかもしれない。

そう思ったのは俺だけじゃないようで。



「いやぁ…女の子同士が仲良くしてるのを見ると心穏やかになるねぇ」

「何言ってんの?周」

「え?朔ちゃんは思わないの?春ちゃんに友達が出来るかもしれないってのに。
 それに女の子がワイワイしてると何だか嬉しくなるからねぇ」

「周みたいな変な思考にはならないよ。俺は。
 ただ…これがきっかけで春ちゃんに友達が出来たらいいなって思うけどね」

「そりゃね。だって春ちゃんまだ女の子友達っていないんじゃないの?
 伊里谷先輩を除いたら…」

「まぁ…確かに」

「だから…あの二人、これを機に仲良くなれたらいいよね」

「うん、そうだね」


「…………」

「ん?どしたの?蓮」

「いや。あの二人…朔さんと周さんってやっぱり春ちゃんに対して過保護ですよね」

「うーん、だなぁ…。あーでもきっと後輩が出来た事が嬉しいんだよ!おれだって嬉しいしな!!後輩万歳っ」

「…………」

「あ…勿論おれや朔真と周は蓮に対しても過保護だぜ?安心した?」

「……何ですか。
 ……そんなお節介いらないですし、そんな衝撃的事実聞きたくなかったです」

「そっかそっか、あはは~」



あっはっはと楽しそうに笑いながら俺の頭を撫でる晃さん。

そんな俺はぷいっと晃さんとは反対方向を向いて、
嬉しそうにまだまだ俺にちょっかいを出してくる晃さんを適当にあしらうのだった。





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「いい?では今日やる事のおさらいをするよ?」

「「はーいっ!」」



そう言って朔さんがしっかりと青春部を仕切り始める。

謎や事件性の多い問題部の部室に乗り込む組とシューズを学園内で探す組。
この二つに分かれて今日は行動する事に話し合いの結果決まった。

話し合いの結果、問題がありそうな部に乗り込むのは
今までの活動で色々な部にある程度面識があるという二年生先輩トリオが担当する事になった。
そして残った一年生トリオは学園内でシューズを探す役割に自動的に決定した。

まぁ…サバイバル部はともかく他の変な部の存在について俺は今、初めて知った訳だし。
色々な部に面識がある先輩達の方が話し合いも上手くいくだろう。

という訳で今日の御子柴さんのシューズ探しは二手に分かれて行動する事になったのだった。



「ねぇ朔ちゃん。シューズ探す組…一年生達だけで大丈夫なの?
 蓮ちゃんが完全に浮いてると思うんだけど」

「……悪かったですね、浮いてて」



二手に分かれる事になった事でシューズ探す組は俺と春ちゃんと御子柴さん。
俺だけが男子で浮いてるのは重々承知なんですが…周さんに言われると物凄くイラっとくる。



「まぁまぁ…そりゃ蓮は少し人見知りで、人と接する事が苦手で毒舌吐きかもしれないけど…。
 おれは蓮の事、信じてるからな!!」

「そんな信頼別にいらないです、興味ないです。後、さり気なく俺をディスるのやめてくれません?」

「うぅ…蓮が冷たい…酷い…」

「あぁもう、蓮くんも晃介も無駄話してないで、行動に移すよ。時間ないんだから。
 さぁ、それぞれ行動開始して!ほらっ!!」

「「「「「はーい」」」」」



副部長の朔さんに促されて、俺達はようやく行動に移す事にし、それぞれが立ち上がる。



「俺達はサバイバル部に話聞いてくるから、蓮くん達は校内でシューズ捜索よろしくね」

「……はーい」

「が、頑張ります…!!」

「こちらこそ…っ。よろしくお願いしますっ」



御子柴さんがぺこりと先輩三人にお辞儀をし、
そんな御子柴さんに笑顔を返した三人は青春部部室を出て行った。

そして…無言になる青春部部室。
俺も春ちゃんも自ら話していくようなタイプではないので
すっかり部室の中は静まり返ってしまっている。

そんな空気を一瞬で壊したのは…。



「うしっ!!」

「「�煤I?」」



御子柴さんの気合いが入った大きな掛け声だった。
というか大きすぎてびっくりしたし!!



「絶対にシューズ見つけてやるんだから…!
 れんれん、みーちゃん!協力よろしくお願いしますっ!!」

「は、はい…!絶対に見つけましょう…!!」

「……朔さん達が事情聴取に行った部にあるってのが一番平和なんだけどな」

「でも私、他の部に恨まれるような事した記憶ないし…」

「…………」



この広く大きな学園の中でシューズを探すのも一苦労で物凄く大変だろう。
しかしそんな大変な事になるであろうと分かっていても
俺よりも女子二人の方が…



「絶対、ぜーったい探し出して、私は必ず陸上部に戻ってみせるんだからっ!」

「はい、絶対探してみせましょう!」



何倍いや何十倍もやる気で満ちているようだった――。





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「…………」

「…………」

「…………」



という訳で。
俺達一年生トリオは御子柴さんのシューズを探すために、
学園中のあらゆる所を巡って歩いている最中な訳なのだが…。



「(誰も会話しようとしねぇ…御子柴さんまで黙ってしまって何だかもういても立ってもいられない…)」



チラリと春ちゃんの方を見てみると



「…………」



春ちゃんも相当緊張というかこの場をどう収めようか試行錯誤してこんがらがっているようだ。
……俺も春ちゃんも似た者同士だしな。

取り敢えずシューズがありそうな場所を探してみる。
もし盗まれたのならある場所の定番といえばゴミ箱か…。

学園中のあらゆる所を探って歩く俺と春ちゃんと御子柴さん。
学園の中は放課後ともあって、皆部活に精を出しているのか、あまり生徒はいない。
恐らくある程度の生徒は部活棟とかグラウンドとかにいるみたいだし。

そんな広い学園を三人で探し物をあたりながら歩き続ける。

会話がないのが少々苦しいけれど。

そんな空気を壊したのはまた御子柴さんだった。



「ないねーシューズ。うーん…ほんとどこいったんだろう」

「あ、あの…」

「ん?みーちゃんどうしたの?」

「シューズがなくなったのに気付いたのは…一昨日なんですよね?
 昨日は…もしかしてずっと探してたんですか?」

「あー…。うん。あの時はすぐ見つかると思ってたんだよ。
 でも見つからなかった…。だからまた部活休んじゃった」



あはは。と苦笑いする御子柴さん。
少し話しただけで陸上が凄く好きなんだって伝わってくるのに…。
二日も休んで…きっと悔しいんだろうな。
俺はそんな事思った事ないけど。

あ…。でもゲームを用事が出来て二日くらい出来ない時は少し思ったりするかも。

そんな関係ない事を考えていた俺。
しかし御子柴さんは続ける。少し悲しそうで辛そうな表情で…。



「あのね…実はね。私、あまり陸上部では良く思われていないかもだし…」

「良く思われてない…?」

「ほ、ほらここって部活動で有名な学校だよ?その陸上部となればかなり足が早い人が集まるでしょ?」

「そ…そうですね。部活に特化した学園ですし…」

「陸上に賭けて入学して来て…二年間ずっと頑張ってきた人達がいる。
 でも…私がそんな先輩達を押しのけて一年生で唯一個人種目に出れたり、
 三年生に混じって代表選手に選ばれてたりもして。
 同級生ももしかしたら私の事よく思ってないかもだけど、
 それ以上に代表に選ばれてない先輩達は……」

「「……」」



青春部という楽なぬるま湯に慣れきっていたが、
実力がある生徒がレギュラーや代表に選ばれる。実力が一番。
それがこれが普通の"部活動"なのだ。



「あ…でもこれは私の思い違いというか考え過ぎなのかもしれないから!
 部活動でそんな事言われた事ないし…ただ私が勝手に悩んでた事だから…っ!」

「…え。あー…うん」

「だから私は大丈夫、だいじょーぶ!シューズ探し協力…よろしくお願いしますっ!」

「……あ、はい」



これが天才という奴なのだろうか。
御子柴さんは陸上では…というかこの蒼響学園の陸上部の中では
上級生を上回るタイムの持ち主なのか。

そんな一年生が代表の試合に選ばれたりしたら少し反感を買うのだと思うのだが…。

よくよく考えたら…犯人ってのはもしかしたら…。
俺がそんな事を考え込んでいたその時だった。



「あ…あ、ああ…あの!!」

「「え!?」」



いきなり春ちゃんが勢いをつけて声を張り上げてきた。



「御子柴さんは…凄いと思います」

「え?そ、そうかな?」

「わたしなんて…入りたい部活も見つからず…。
 部活探しさえも青春部の皆さんに手伝ってもらった…本当に情けないんです」



春ちゃんは少し興奮気味に御子柴さんに訴えかける。



「でも御子柴さんは自分のやりたい事のためにこの学園を受験して入学して…。
 努力して…努力して…今の御子柴さんが…いるんですよ、ね?
 わたし…御子柴さんが羨ましいです…」

「みーちゃん…」

「だから…だから…御子柴さんは凄い人です。
 自分を…卑下しないで…自信を持って…走ってほしいんです…!」



彼女がずっと思ってきた事。それが御子柴さんに伝わっていく。
春ちゃんと言えば春ちゃんらしい言葉。彼女の心からの本心なのだろう。

そんな春ちゃんの言葉に御子柴さんはにっこりと素直で自然な笑顔で



「ありがと、みーちゃん」



心からのお礼の言葉を告げたように俺には見えたし。、
御子柴さんの先程までの少し暗いような雰囲気はもう消えていたようだった。



ピピピピピ…
突然鳴る携帯からの電子音。



「あ…わたしのスマホだ…」



その音に反応したその携帯の持ち主である春ちゃんがスマホを取り出し操作する。
どうやらメッセージが届いたらしい。



「あ…晃さんからメッセージきてました」

「……え?」

「えっと…『一応、色んな部を回ってきた!今から青春部部室集合っ!』だって」

「……あー。先輩達もう回ったのか」

「うひゃあ…早いね先輩達。こっちは成果無しかぁ…」

「で、でも…先輩達が見つけて下さってるかも…」

「……春ちゃんの言う通り。まずは部室に戻ろう」



俺達は校舎内のシューズ捜索を途中断念し、青春部部室に戻るのだった――。





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「小鳥遊くんって冷たいんだね」

「あーなんか分かる。ショックだよな…あんな人だとは思わなかった」

「少し前まではあんなに目立ってたのにな」



とある事がきっかけで俺は"友達"が信じられなくなった。
と、同時に"友達"を作る事を拒絶した。

何が原因だったのか?
実はそれは俺もよく分からない。
きっと恐らく俺自身が思い出す事を拒絶しているのだろう。

封印された記憶。
俺の小学生時代の記憶は曖昧で、その時の思い出というものがなかった。
というかあまり覚えていなかった――。
でもこれだけは分かる。


"友達を作るな、他人を信じるな。自分が傷付くだけだ"


ずっと頭の中に残っていた俺の中の教訓。
その教訓に従って俺はずっと生きてきた。
だから…小学校を卒業した後も、中学生時代も誰とも群れずにずっとずっとひとりだった。
そう、それでよかったんだ。

だから俺はこれでいいんだ。
曖昧のままで。このままで。そう、ずっとこのままで――。





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「皆、お疲れ様」



部室に戻ってきた俺達。
二年組と一年組で分かれて行動した結果を話し合う事になったのだが…。

先輩達の顔を見た限りいい結果ではなかったのだろう。
それは先輩達側から見た俺達もそんな風に見えたのだろう、
朔さんが重い雰囲気を突破らうように話をはじめた。



「じゃあまずは俺達の報告から…。まず色んな部に行って来て話は聞いてきたけど…結果から言うとダメだったかな」

「そうでしたか…」

「怪しい部一応全部回ってみたけどみんな知らないって。ごめんね華乃ちゃん、お役に立てなくて」

「いえっ!こちらこそ…ありがとうございます、有栖川先輩」



周さんにお礼を言う御子柴さん。
と…次は俺達が報告する番か…。そう思って口を開こうとしたその時。



「えと…わたし達ですが、すみません…見つかりませんでした…」



俺より先に報告をしたのは春ちゃんだった。
少し驚くような表情になる朔さんと晃さんと周さん。
そんな先輩達の様子に気付いているのかいないのか、そのまま春ちゃんは報告を続ける。



「一応…誰かが隠しているのではと思って、学園中のゴミ箱とか隠せるような場所を探してみたのですが…」

「そっか…ありがとね、春ちゃん。蓮くんと御子柴さんもお疲れ様」

「……はい」



結局どちらも成果がなかった…という事か。
そりゃ簡単に見つかれば御子柴さんも青春部に相談しに来るはずがないし…。

やっぱり落ち込みモードだった御子柴さんがゆっくりと立ち上がって口を開く。



「皆さん、ありがとうございますっ!
 でもこんなに探して見つからないのならもう出てこないかも…。
 だからこの依頼、良かったら取り消して…」

「それは却下!!」



御子柴さんが言い終わる前に阻止したのは…晃さんだった。



「御子柴ちゃんの大切なお父さんから貰ったシューズなんでしょ?
 そんな簡単に諦めちゃダメだって!
 まだ捜索ははじまったばかりなんだから…!!
 だからまだまだ一緒に探そう?な?」



晃さんらしい人を元気付ける明るく優しい一言。

まだシューズが誰によって盗まれたのか、どこにあるのかも分からないこの状況。
打開策なんて見つかるのかさえも分からない。
でも…それでも晃さんをはじめ、俺達は
少なくともこれで御子柴さんの依頼を無理矢理に終わらせるという選択肢はなかった。



「御子柴さん…絶対みつかります。見つかるまで頑張りましょう…!」

「みーちゃん…。えっと…いいんですか?まだ青春部の皆さんに頼っても…」

「「「「もちろん」」」」

「はい!」

「皆さん。…ありがとう、ございます!」


「それに可愛い女の子の悩みを解決出来ないからってそのまま放り出すなんて…。
 オレには絶対出来ないしね、華乃ちゃんの納得いくまで周さん頑張っちゃうからね?
 だから華乃ちゃんも今まで通りオレ達を頼ってくれたらいいんだよ?」

「は、はぁ…そうです、ね。はい!」

「……折角いい話になってたのに…全部台無しじゃないですか。この女たらし」

「�曝@ちゃん酷い!?オレそんなに悪い事したかな?」

「……雰囲気ぶち壊し」

「そ、そんなに変な事言ってた!?え!?」

「……本人が気付いてないなら更に重症ですね」

「そんなぁー…」



先程までの暗いような雰囲気から一変。
俺と周さんの会話がきっかけでいつもの楽しい青春部の雰囲気に戻った。
そんな俺らをみて先程まで暗かった御子柴さんも笑顔を少し見せた…気がする。

しかし依頼に関しては降り出しのゼロからの再スタート。
この学園の怪しい部にはシューズの手掛かりはなかったみたいだし、
俺らも今日一日学園中歩き回ってシューズを見つける事は出来なかった。

一体誰が、御子柴さんのシューズを…?そして何処に…?
こんなに見つからないのならばやはり誰かが盗んでまだ持っている説が高いのか…。
謎は深まるばかりだし、犯人は何故御子柴さんのシューズを盗んだのかも分からない。

やはりこんなに探しているのに見つからないのは
まだ犯人がシューズを持参してるって事で確定してもいいのかどうか?
俺達はまた状況を見つめ直し、考えを1からまとめてみるが…。



「「「「うーん…」」」」



結果はやはり分からないまま…答えは出ないままだった――。



「……っ!」

「ん?どしたの?周。何か忘れ物でもした?」

「いや…そうじゃないけど…」

「?」



周さんが突然振り返ったのは部室にある窓の方。
先程まで晃さんと周さんが顔を出し、だらけきっていた場所だ。
でも何故いきなり窓に…?
と俺が考えていたその時。

キーンコーンカーンコーン

チャイムが学園中に響き渡る。
このチャイムは…夜六時を知らせる下校のチャイムで…所謂タイムリミットを表していた。
夜六時以降は学園で認められた部以外は部活動を終了し下校を始めなければならない。
青春部は当然ながらそんな許可はないという訳で…。



「今日はここまで…かぁ」



朔さんがため息を吐きながら部活動の終わりを告げる。

なるべく早く御子柴さんのシューズを探してあげたい。
そう思うものも時間は有限で。
仕方が無く帰る準備をはじめる事となった。



「こんなに時間が足りないって感じたのって久々かも」

「謳歌部が来てカップケーキ食べてる時までは退屈だったのにねぇ」



晃さんと周さんも帰る準備をはじめ、スクールバックを持ち、部室から出ていこうとする。
俺と朔さんと春ちゃんと御子柴さんもそれに続く。

部室の鍵を持っていた朔さんが誰もいなくなった部室のドアに鍵をかけ、
「あ、そうだ」と振り向きながら思いついたように御子柴さんに向かって優しく告げる。



「俺達も少し友達とかに聞いてみるよ。何処かでシューズ落ちてなかったとか…」

「あ、ありがとうございます、水無月先輩っ!」

「お礼なんていいって。早くシューズが見つかる事が大切なんだから」

「あ、じゃあおれも友達駆使して色々聞いてみる!」

「じゃあ周さんは女の子達に聞いてみるね?」



……友達が多いっていいですね。
そんな卑屈が的な文句が口から出そうになったがそこは我慢する。

御子柴さんは「よろしくお願いします!」と
数時間前に部室に初めて来た時と変わらず元気な声で朔さん達に頭を下げる。

明日こそ見つかればいいけど…。
いつもの青春部に一人加わった六人で帰る寮までのいつもの帰り道。
俺はどうにかしてこの依頼を解決出来ないか…無意識に考え込んでいたのだった――。





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「じゃあ女子寮は向こうだね」

「じゃあね、春ちゃん!御子柴ちゃん!明日こそ絶対見つけてみせような!!」

「またね~」

「……では」



いつもどおり、男子寮と女子寮の分かれ道でわたしは青春部の仲間達と分かれる。
けれど、いつもと違うのは…。



「明日もよろしくお願いしますっ!」



隣に、御子柴さんがいるという事――。 









「えへへ。何だかびっくりだよね。
 昨日までは話した事もなかったみーちゃんとこんな風に一緒に帰れるってさ」

「で…ですね…」

「あれ?もしかして緊張してる?してるのかな?」

「あ…はい。すみません…」

「謝る事じゃないって。それに敬語で話さなくてもいいんだよ?」

「いえ!それ以上は…わたしの方が持ちません…」

「そう?じゃあ、みーちゃんが私に慣れたら敬語無しで話してほしいな」



そう言ってわたしに笑いかけてくれる御子柴さん。
とっても素敵な方です。
そんな御子柴さんのシューズを隠した方…もしくは盗んだ方がいる。
その事実と、そんな彼女に力に全くなれてない事が申し訳なく思えてくる。



「あの…御子柴さん」

「ん?何かな?」

「わたし…明日も頑張って探しますから!」

「…うんっ!明日もよろしくね。どうか力になってください」

「…はい!」



わたしの今、出来る事はこれだけ。
ただただ御子柴さんのシューズを見つける事だけ…それだけを考えよう。

わたしと御子柴さんは他愛のない話を少しずつしながら帰路につくのでした。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





「うーん…」

「どうしたの?周。さっきから唸ってるけど」

「もしかして…!今日の寮の夕食のメニュー嫌いなやつだとか?」

「そんな訳ないでしょ。そんな些細な事で周さんは唸りません。落ち込むけど」

「落ち込むんですか…」



春ちゃん達と分かれてそれぞれの寮の部屋へ向かう最中。
二人と分かれてから何か考え込むように唸る周さんについに朔さんからのツッコミが入った。

このまま放置でいくのだと思っていたのだけど。



「じゃあなんでそんなずっと考え込むような…」

「さっきね、部室にいる時。誰かからの視線を窓から感じたんだ」

「視線?周のファンとかじゃなくて?」

「いやオレのファンの女の子なら甘い視線をいつも送ってくれるから違うよ。
 今回はこう…鋭い感じというか…悪意があるようなそんな視線」

「……甘い視線って」



甘い視線は置いておいて。
周さんが感じた鋭い視線…しかも窓から。
部室の外から誰かが様子を伺ってたって事、か。



「誰かがって…誰がおれ達の事見るんだよー」

「誰って…そりゃ…華乃ちゃんのシューズを盗んだ犯人とか?」

「「「え」」」

「だって有り得るでしょ?今日ずっとオレ達は彼女のシューズを探してたんだ。
 今日オレ達が行った部から話を聞いた犯人が様子を伺ってきたっておかしくないでしょ?」

「…なら。俺達が今日行った部の中に犯人がいる可能性もまだ捨てきれないって事か」

「そうそう。でもね朔ちゃん。オレ少し目星ついてるんだよねぇ」

「「「え!?」」」



今、周さんなんて言った!?目星ついてるって!?



「な…なんで分かってるなら全員集まってる時に言わないんですか!?」

「ノンノン蓮ちゃん。……華乃ちゃんがいたからだよ」

「え…」



思わず俺は立ち止まる。
気が付けば、晃さんも朔さんも立ち止まっていた。

そしてゆっくり、そして何か認めたくないような面持ちで…告げる。



「オレが怪しいと思ってるのは……陸上部だから」





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





いつものように、朝起きて、身支度をし、朝食を寮の食堂で食べて登校する。
彼女が向かうのは自分のクラスである"一年一組"。

思い切り一組の扉を開き、挨拶をする。クラスメイトに向かって大きな声で。



「おっはよーございまーっす!!」



華乃の大きな声は教室中に響き渡り、皆が挨拶を返してくれる。
クラスメイトと少しずつ挨拶を交わしながら自分の席にたどり着く…のだが。



「はよっす、華乃」

「おはよ。御子柴ちゃん」



先に華乃の席に先回りしていたのは同じ一組のクラスメイトで
部活は謳歌部に所属している九頭竜陸と京ヶ峰理人だった。



「おはよーりっくんにりひとん。どしたの?二人して」

「あのな、昨日お前、青春部に依頼持ってきてただろ?
 無事に解決したのかなぁって」

「ほら…まだ一年生で青春部に依頼を申し込もうとする勇気ある人なんていないじゃない?
 だからさ…それだけ切羽詰まってるのかなって…」

「あーうん。それね。それはまだ解決してないけど…」

「そうなのか?」

「うん、ちょっと探し物をね。中々見つからなくて」

「探し物が依頼なの?じゃあおれ達もよかったら…」


「華乃ー。先輩が来てるよー陸上部の先輩」

「え!?」



理人が言いかけたそれを華乃を呼ぶ声が遮った。
"陸上部の先輩が教室に来ている"。これを無視する事は出来ない。
そう即座に理解した華乃は、陸と理人に「ありがとね」とだけ短めに告げて
陸上部の先輩が待つ一組廊下の前へ早足で向かう。

陸上部…ずっと休みっぱなしだけど…今日も出れない。
その事をまた伝えないと。気が重い。
そんな事を考えながら先輩の元へたどり着く。



「すみませんっ。先輩…って部長!?」

「御子柴さん、元気そうね。二日も部活休んだのに」

「あ…その件はすみませんでした。でも…今日も休ませて欲しいんです」

「……今日も?」

「はい、ほんと、すみませんっ!でも今だけはどうしても出れなくて…」

「…………あのね御子柴さん。陸上部の部員は皆いつも真剣にやってるの。
 あなた、少し足が速いし更に三年よりもタイムがいいからって調子のってたりしないわよね?」

「え……?そ、そんな事はっ…!」

「御子柴さん。今日は大目にみます。
 だけど…明日部活に出なかったなら陸上部を退部してもらいますから」

「え……?」



陸上部部長から告げられた衝撃な事実は…
華乃の願うハッピーエンドからは大きく遠ざかっていくような通告だった――。



To Be Continued...


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青セン18話でした。
前回に引き続き「探し物」篇ですね。

華乃の依頼が本格的にスタートするのですが…盗まれたシューズを探せ!というありきたりな依頼ですね。
そんな盗まれたシューズについても語られたり…華乃も結構掘り下げたいキャラでもありますので番外編とかでも活躍させたいですね。個人的には本編でも結構出番が今後あると思います。

ずっとシューズ探しの依頼関係の話が続く面白みのない話になっちゃったのが少し残念ですね。
あと、蒼響学園には変な怪しい部活が多いという事で。
一応そんな怪しい部活が問題を起こす事で生徒会のブラックリストに載ってる…という事もこっそり明らかになりましたね。ここで名前が上がった部…皆結構怪しい部活ですが。

そして美桜と華乃の会話。美桜はまだ緊張しまくってるので上手く話せなかったり、敬語から抜けられなかったり。
この二人についてはきっと今後進展するのではないかな?

という訳で青春部の中では意外な犯人像が浮かび、更には華乃は陸上部を辞めなければならない!?というピンチな状態に。果たして華乃のシューズは見つかるのか…次回19話もよろしくお願いします!