オリジナル創作・青春センセーション!の9話になります。


この作品はオリジナル創作です。
オリジナル要素が大丈夫な方だけ追記からどうぞ!


ある春の日、俺はこの人達と出会った。青春部に――。


引き続き「春風篇」です。その名は…謳歌部。


▽以下オリジナル要素含みますので注意してくださいね。



いままでのあらすじ by不知火晃介

季節は春。新入生の小鳥遊蓮が我ら青春部に色々あったけど入部してくれた!
これで部員が四人になって正式な部活になれると思いきや…。
正式な部活になるには部員は五人いるって事が分かっておれ達は大ピンチ!
あと最低でも一人…勧誘活動をするおれ達だったけど中々うまくいかない。
更に、差出人不明の依頼まで青春部に舞い込んできてしまいおれ達も更にてんてこ舞い。

でも蓮が差出人である春ちゃんこと春日野美桜さんを見つけてきてくれて…、
春日野さんは正式におれ達に依頼を申し込む事になったのだ。

彼女の依頼は『美桜に友達が出来る事と部活に入る事』。
張り切って依頼を解決しようと動き出したその時!

おれ達青春部をライバル視する、謳歌部が目の前に現れたのだっ!

まさかのライバル登場にワクワクするけど…これは負けられねぇよな!
何に宣戦布告されたのかわかんないけど、売られた喧嘩は買ってやるぜ!!









僕の前を去っていく君。



入学式が終わりこれから一年授業を受ける事になる教室に入り席に着きふと左を見てみると、
隣の席に座り耳には音楽プレイヤーに繋がっているであろうヘッドフォンを付けている君がいた。

息が止まるかと思った。
話しかけてみたい。
いや話しかけなくてはいけない。

そう即座に思う。

だって、だって、これは、きっと、最後のチャンスだから。

神様がくれた僕への最後のチャンスだから。


でも彼はそっけなくて。
高校生活一日目が終わり校舎を出たら二年生に絡まれていた彼を見つけた。
そして彼の後を追い寮についた時、思い切って声を掛けてみる。
彼は僕と少し話しをして、そして本当にあっさりと寮へ帰ってしまった。

やっぱりこんな僕とは"友達"になってはくれないんだなって。



「なぁなぁ、そこのお前。一年だよな?」

「……え?」

「お、ネクタイ青色。やっぱり同い年だな。……ってお前入学式で新入生代表の挨拶してた奴じゃん」

「どうしたの陸?……ってほんとだ!新入生代表の人だ…!頭いいんだね、君」

「え…?あの…?」



寮の前で立ち尽くす僕に突然声が掛かった。
僕に声を掛けたのは一見チャラそうに見える男子と八重歯が見える明るい雰囲気の男子だった。



「ここで会ったのも何かの縁だな。なぁ理人、こいつ誘ってみねぇ?」

「うーん、いいんじゃない?部員の数は多い方がいいしね」



何か僕を置いて二人で話が進んでいる。
一体この人達は何者なんだろう?確か僕のクラスにはいなかったはずだけど…。

そして彼らは僕に向かって手を差し出す。



「「一緒に部活、作ってみない?」」



それが僕と"謳歌部"の出会い。





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「「「我ら…学園生活を楽しみ謳歌する部活…謳歌部ッ!!!」」」

「青春部…俺達はお前らに宣戦布告に来た!!」

「は……?」



思いっきり素のめんどくせぇやつだな的な反応をしてしまった。
いや、だって本当にめんどくせぇと思ってるんだからそれが普通の反応だろう。


謳 歌 部 っ て な ん な ん だ よ ! ?


青春部とかいう訳のわからん部活に強制的に入れられたかと思いきや
目の前には青春部に似たような訳のわからん部活を名乗る同じ一年の三人。

しかもその部活には…どうしてなのかは分からないが…

渕之上昴がそこにいたのだ。







*9話「その名は謳歌部」






目の前に現れた謳歌部と名乗る三人の一年生。
俺は今のその状況に頭が追いついていなくて理解も出来ないまま立ち竦んでいた。

でもそんな沈黙を破ったのは、我らが青春部の先輩達だった。



「え…えっと。謳歌部…ですか?昴くんと…えっと、君達は…?」

「あ、申し遅れましたっ!俺は一年一組・九頭竜陸です。青春部の先輩…よろしくお願いしますっ」



見た目は不良っぽい不真面目さが出てるのにしっかりと朔さんに対しお辞儀をする九頭竜。
人は見た目で判断してはいけないっていうのがよく分かった気がする。
普通に不良少年だと思ってました。ごめんなさい、九頭竜さん。



「あ…おれも同じく一年一組の京ヶ峰理人です。以後お見知りおきを」

「あ、ご丁寧にどうも。俺は青春部副部長の水無月朔真です」

「はいはーい!おれは青春部部長の不知火晃介!よろしくな!」

「そしてオレは青春部の参謀の有栖川周。よろしくね」



そして京ヶ峰も丁寧に自己紹介をしお辞儀をする。
それに対し青春部の先輩三人も自己紹介をする。

一瞬場の雰囲気が和やかないい感じになったのだけど…その雰囲気は一瞬で崩れた。



「と…和やかにしてられんのも今のうちだぁ!」

「おれ達謳歌部の宣戦布告を流してもらっちゃ困るね!」

「は!?」



先程までお辞儀してたりしてたのに!?
一気に陸と理人の二人の雰囲気がまるで"悪"のような感じに変わっていた。

俺は思わず突っ込まずにはいられなかった。



「お前らさっきまでの和やか雰囲気はどうしたんだよ!?」

「あ?だって…自己紹介はしっかりしないとだろ?人間関係のはじまりなんだから」

「そこらへんはしっかりしてんのな…」



普通に九頭竜から正論で返された。何だか悔しい。
そんな俺と九頭竜のやり取りを見て先程の登場からずっと黙っていた渕之上が口を開く。



「で…皆、普通に自己紹介してるけど…。謳歌部って何?とか宣戦布告って何?ってならないの?」

「「「「!?」」」」

「……見てる側としては遊んでるようにしか見えなかったから楽しんでるのかと思ったよ」



ごほんと咳払いをし、和んでいた空気を一新させる渕之上。
そして目を見据えてまっすぐに俺達を見た。

こいつってこんな顔してたっけ?



「同じく…この中で僕の事知らない人はいないと思うけど…一年二組の渕之上昴です」



言い終わりニコッと笑う彼。
先程までキッチリしていた渕之上の表情は天真瀾漫という熟語が似合うそんな笑顔だった。



「ちょっといいかな?昴くん」

「はい、水無月先輩、なんでしょう?」

「君の入りたかった部活って…この謳歌部の事だったの?」



朔さんが俺達が聞きたくて聞きそびれていた事をずばっと聞く。
しかしそれに対し比較的あっさりと渕之上は答えた。



「はい、その通りです」

「……!!」



渕之上のあっさりとした回答に、俺は頭に石をぶつけられたような錯覚に陥る。
自分でも何故こんなに衝撃を受けるのか…分からない。

ただ渕之上が入る予定だった部活がこの"謳歌部"という謎の部活だっただけなのに。
ただ…それだけなのに。

何故こんなに、ショックを受けたんだろうか?



「実は…この二人に誘われたんです。入学式の日に"俺達が作る部活に入らないか?"って。
 最初は断ったんだけど…でも断っても断っても陸くんと理人くんしつこくて寮の部屋まで付いてくるし。
 別に入りたい部活もないしこの二人のその部活を1から作るっていう案にのったんです」

「昴を見たとき…こいつは仲間にすべきだって感じたんだよ。だから昴を誘った。んで…」



九頭竜が振り返り俺と春日野さんに向き直る。
いきなりこちらに体を向けた九頭竜に俺と春日野さんの肩が跳ねた。

な、なんで…こっち見たんだ?

すると彼は衝撃的な一言を俺達にぶつけてきた。



「ビビっと感じたのは昴だけじゃねぇ。
 小鳥遊蓮と春日野美桜。お前ら二人もこの俺の第六感が反応したんだ、仲間に引き入れろってな。
 だから俺は…お前ら二人も謳歌部の一員にしてやろうって思ってる!そのための宣戦布告だぜ!」

「「!?」」

「「「は!!??」」」



言葉が出ない俺と春日野さん。そして驚きのあまり変な声を上げる青春部の先輩三人。
それもそうだ、何故か俺と春日野さんが…謳歌部に狙われていたのだから。
そんな春日野さんに九頭竜と京ヶ峰が勧誘を仕掛ける。



「春日野美桜。お前は今入る部活を探しているって調べはついてんぜ。
 そこでだ…うちの謳歌部に来る気はねぇか?謳歌部はお前を歓迎するぞ?」

「今なら毎日おれが作るおやつも付けちゃうよ?悪くないと思うんだけどな?」

「え…え…あの…?」

「ちょ!ちょーっと待ったああああ!!」



いきなり晃さんの大声が部室中に響き渡った。
部室にいた全員がその声に大きく反応する。こ、鼓膜が破れるって!!

そんな周りにもお構いなしに晃さんは下級生である九頭竜に詰め寄る。



「な、なんで蓮くんと春日野さんに目を付けたの!?
 しかも蓮くんはもうこの青春部の一員だよ?どうして…?蓮くんと春日野さんを…?」

「なんでって…俺達も狙ってたからっすよ?」

「狙ってた?」

「昴もそうなんすけど、入学式の時に部員にしたい奴を見繕ってた時に目に入ったんす。
 ほら、小鳥遊と春日野って見るからに学園生活をエンジョイしますって感じがしてない感じがするし」



完全に俺と春日野さんの事を馬鹿にしてる。
そりゃ見るからにぼっちで高校生活を楽しもうって雰囲気出てなかったかもだけど、
他人にそう指摘されると何故かイラっとくる。本当の事なのだけど。



「という訳で!春日野美桜ッ!」

「は、はいっ…!」

「入る部活が決まってねぇんなら謳歌部に入るってのはどうだ?いや入りやがれ!もうこれは決定事項だぜ!」

「……え、え?」



今までずっと黙って俺達のやり取りを見ていた春日野さんにいきなり九頭竜が命令する。
というか一体何様のつもりなんだろうか…しかもこの命令口調である。

春日野さん少し怖がって、後退りしてるし。



「ちょっと待って。彼女は入りたい部活に入部するのが目的なんだよ?
 そんな謳歌部に入るなんて事…彼女の意思に反するなら俺達は賛成できないから」



そんな九頭竜の強制的な勧誘についに我らが青春部の母である朔さんが二人の間に入り込む。
さすが朔さん、正論が飛び出した。
しかしそんな正論攻撃には謳歌部は屈しないようで…。



「やっぱり…嫌?今なら謳歌部に入ると毎日おやつ付きなんだけどな。おれの作ったスイーツなんだけど。
 あ、おれって実はねお菓子作りが趣味でね…」

「今はそんな事どーでもいいんだよバカ理人」

「む、バカってなんだよ。バカ陸!」

「け、喧嘩は…ダメですって…」

「ダメ?じゃあ謳歌部に入ってくれたらもう極力喧嘩しないようにする。これでどーだ?」

「そ、そんな風に言われても…えっと、その……」



京ヶ峰の勧誘にも春日野さんは断りにくいのか曖昧な返事しか返さない。
そりゃそうだ。謳歌部なんていう訳のわからん部活なんて入るつもりはさらさらないけどな。

……青春部とかいう訳のわからん部活に入ってる俺が言う事でもないけど。



「と…取り敢えず!小鳥遊蓮、春日野美桜。お前らうちの謳歌部に入る準備しておけよ?
 絶対、ぜーったいに青春部なんかに入れさせねぇからな!」
 
「待ってるよ、二人からのいい返事期待してるから」



そう言って九頭竜と京ヶ峰は部室を出て行く。
だがしかしその場に留まり続けている人物がいた。

渕之上昴だ。

彼はゆっくり動き出し、既に九頭竜と京ヶ峰が出て行った部室の扉が閉まるのを確認して、
渕之上は俺だけに聞こえるような小さな声でゆっくり絞り出すように…



「僕ね…小鳥遊くんと"友達"になりたいって思っていたのは本当…だから。……じゃ、また」



よく分からない彼の言葉に俺は驚きながら声も出せなかった。
そんな俺を置いて、渕之上は先輩達に軽くお辞儀をし九頭竜達のいる廊下へと出て行った。

バタンと閉まった部室のドア。そして静まり返った部室に残ったのは現状を把握しきれていない先輩三人と春日野さんと俺だけ。



「……取り敢えず。春日野さんの部活巡りは明日からにしようか。
 今日はなんだかもう疲れちゃったしね」

「「「賛成」」」

「そ…そうですね…」



朔さんのこの一言で、この場はお開きになったのだった――。





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「えっと…本日も…よろしくお願いします…」



次の日。またわたしはここ、青春部の部室を訪れていました。
放課後になり、学園中の生徒は部活に明け暮れる中、部室に集まるわたしを含めて五人。

青春部である四人にぺこっとお辞儀をする。
すると先輩達と小鳥遊くんが切り出してくれる。



「はい、よろしくお願いします。えっと…昨日は謳歌部とかいう訳の分からない部活が邪魔して何も出来なかったけど。
 部活探しと友達作り頑張ろうね」

「……青春部も十分に訳の分からない部活なんですが」

「何か言ったかな?蓮くん?」

「い、いえ。何でもありません」



サラっと小鳥遊くんを笑顔で制した水無月先輩はメモ帳を取り出し何かを確認しながらわたしに向き直る。



「まずは…俺の紹介でいくつか部活回ろうと思うんだけどいいかな?」

「は…はい。水無月先輩の紹介…ですか?」

「うん。と言っても部活の種類としては偏ってるんだけどね。じゃあ移動しようか」



立ち上がる水無月先輩に釣られわたしも椅子から立ち上がり移動の準備をしていたその時。



「ねぇ、春日野さん」

「…っ!?は、はい?なんでしょう…!?」

「そこまで驚く所かな?オレってもしかして嫌われてる?」

「いえ…嫌うだなんてそんな滅相もないです…!ただ驚いただけで…すみません…」

「いえいえ。オレもちょっとからかってみただけだから」



声を掛けてきたのは有栖川先輩でした。
昨日と変わらない女子全てを魅了させるようなそんな素敵な笑顔。

こんな方を嫌うだなんて滅相もありません。



「そうそう、髪型。昨日教えた通りに結ってきてくれたんだね。
 似合ってるし、ちゃんと出来てるよ。えらいえらい」

「そ、そうですか…?はじめて自分で結ったので…自信なかったのですが…」



昨日のあの後、有栖川先輩からこの髪型の仕方を教えてもらった。
簡単なアレンジにしてもらったおかげか何回か練習して、無事に今朝自分で結って学校に来れたのですが…。



「やっぱりおかしかったのか…教室に入ると皆さんがわたしを見て固まっていて…」



昨日その場にいた小鳥遊くんと、謳歌部として青春部の部室にやって来ていた渕之上くん以外の人はわたしを見て固まっていて。
やっぱり何かおかしかったんでしょうか?



「いやいや…皆驚いたんだよ。昨日まで前髪で顔を隠してた春日野さんがいきなりイメチェンしたんだもん」

「そういうものなんでしょうか…?」

「そーいうものなの。こうやって完璧に結えるようになるなら周さんも教えた甲斐があるなって思って。
 ありがとうね、春日野さん」

「そんな…こちらこそです。教えてくださってありがとうございました」



お礼と共に有栖川先輩に向かって思い切り頭を下げる。
有栖川先輩には色々教えてもらいましたし…お花のヘアピンも頂いちゃいましたし。

そんなわたしを見て有栖川先輩が一言、ぼそっと何かを呟いた。



「……妹が出来るってこういう感じなのかな?」

「え…?」

「いやいや何でもないよー。さ、朔ちゃん達も待ってるだろうし部活見学行こっか?」

「はい…!」





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放課後独特の吹奏楽部の演奏する色々な楽器の音が響き渡る校舎。
その中心角である第一音楽室に俺を含めた青春部と春日野さんの五人は見学にやってきていた。

部活見学をしたい。という朔さんの頼みは一発即返事でOK。
こういう時こうのような手助けをする部活にいると信頼されてお願いも聞いてくれるようになるんだな。
これも朔さんの世渡り上手な部分のおかげなんだけど。

俺らの元に帰ってきた朔さんは春日野さんが見学してもいいという知らせを俺達に伝えて、
そして邪魔にならないように教室の端っこで吹奏楽部の練習を見学した。
さすが吹奏楽部。
人数が多い部活なので全員がその演奏に参加出来ていなくても、心はレギュラーのメンバーと一緒のようだ。

その演奏を聞いて朔さんが目をキラキラさせる。
さすが音楽の才能を持つ男。



「……すごく、上手い演奏ですね」

「そうだね。さすが部活に力を入れてる学校ってだなけあるかな。皆実力者ばかりというか…」

「そうなんですね…なら、わたしはここは…」



春日野さんが朔さんに少し顔を俯かせて申し訳なさそうに告げる。



「わたし…楽器なにも出来ないので…」

「「「「あー……」」」」

「それじゃあ吹奏楽部は無理かな?今ここに初心者が入っても…ね」

「まずは…楽器の練習からはじめなくちゃなので……」

「吹奏楽部はダメかな」



朔さんが吹奏楽部の部長に話をつけ、五人はゾロゾロと第一音楽室を出て行く。

それから第二音楽室活で動をしている合唱部と第三音楽室で活動をしている音楽部にも行ってみたのだが、
春日野さんにはどれもピンとこなかったようだ。
これだけは彼女の入りたい部活を選んであげないといけないので文句は言えない。
春日野さんが入りたい部活を選んであげないといけないから。

青春部に入れなんてもってのほかだ(自虐)

そして次に向かった先は…



「じゃあ次はオレのおすすめの部活にご招待しちゃおうかな?」





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「きゃあああああ!周くん、周くんよ!」

「有栖川先輩!有栖川先輩だわ!」

「まさか遊びに来てくれるなんて…!」



女子達の黄色い歓声が聞こえる。
中には一年生の女子までも周さんに声を掛けているのだが…
もう一年女子さえも虜にしやがったのか、さすが周さんというか…爆発しろ。



「皆、こんにちは。えっと…話は通してあったと思うんだけど。
 部活見学をしたい子がいるんだけど、見学させてもらってもいいかな?」



俺達五人が向かった先は何故か美術部。
周さんの事だ、この前一緒に向かった料理部にでも紹介するのかと思ったんだけど…。
美術部だけあってやっぱり女子が多い。男子も少なくはないのだがやっぱり女子が目立つようだ。

そのせいで周さんのファンにまた囲まれてるんだけど。
晃さんと朔さんは慣れているのかいつもの様子だけど春日野さんは完全にビビっている。
うん…これが普通の反応だ。

周さんに紹介され、春日野さんは美術部の見学に入る。
ただ、しかし…。



「きゃああああ、周くん。今日も素敵ね」

「ねぇねぇ絵のデッサンモデルになってもらえないですか?有栖川先輩?」

「あのあの…有栖川先輩。私のこの絵どうですか?」



美術部の部員が部活動どころではなかった。



「……あの、朔さん。これ本当に美術部なんですかね?」

「うーん…そのはずだったんだけど」

「ねぇ朔真。おれから見たらこれ有栖川周ファンクラブにしか見えないんだけど…」

「晃さんにまでにもそんな事言われるなんて…」

「えぇ!?そんなにおれってバカに見えるの!?蓮!?」



くだらない事で言い合う俺達を他所に美術部部員は周さんに群がってるし、
絵を描いたり部活動をしているのは真面目な部員と男子部員くらいだけだ。

見学をしている春日野さんもこの状態では見学どころではないらしく。

周さん推薦の美術部見学はあっという間に幕を閉じたのだった。





「いやぁごめんね。女の子達が寄ってきちゃって。オレがいない方がやっぱりよかったのかな?」

「「「全くもってその通り」」」

「全員一致の即答!?」



美術部を出た俺達五人は次の見学する予定の部活に向かっていた。
その途中、周さんを三人で責めたりしながら。

そして歩きながら周さんはさり気なく春日野さんに先程の周ファンクラブならぬ美術部の評価を聞く。
まぁ聞かないでも何となく察せるんだけどな。



「で…でも、春日野さんどうだった?美術部。女の子沢山いるから友達沢山出来るかもよ?」

「周さんのファンという友達が…ですね」

「蓮ちゃんいちいち突っかかるね!?」

「美術部紹介してくださって…あ、ありがとうございます…有栖川先輩」

「お?じゃあ…」



春日野さんの言葉に一瞬輝いた目になる周さん。
しかし春日野さんの答えは。



「でも…わたし、絵は描けなくて。皆さんが絵を描いてるのを見るだけで…すごいなって思いました…。
 なので美術部は…わたしは見てるだけでいいかもしれないです…」

「そ、そっか。そうだよねー…」



有栖川周 撃沈。





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「さてと、おれの紹介する部活はね。やっぱり運動部だぜ!」

「うん、分かってました」



五人で校舎内を歩き続け、ついた部室棟は運動部の部室が並ぶ場所。
運動バカで色んな部活に助っ人で顔を出す彼にとって紹介出来るのはやっぱり運動部なんだろうけど。
期待を裏切らないな、晃さん。



「う…運動部…ですか?」

「ん?春ちゃん…じゃなかった春日野さんは運動苦手?嫌い?」



晃さんが潤んだ瞳で捨てられた仔犬のように春日野さんを見る。
無自覚にこんな事が出来るのは天然な性格の晃さんらしいよな。しかも春日野さん困ってるし。



「運動は…苦手ってほどではないですが…あまり得意ではない…です」

「そ、そっか…。それならあまり運動部は避けたい感じかな?」

「はい…出来れば。運動部に入ってもあまりお役に立てそうになさそうですし…」

「そっかぁ…じゃあマネージャーとかは?」

「マネージャー…ですか…?」



うーんと考え込む春日野さん。
彼女は見た目からして運動系じゃないしやっぱりこういう形になってしまったか。

そんな晃さんと春日野さんの会話に朔さんが間に入る。



「ねぇ、マネージャーだと女の子の友達ってあまり出来ないんじゃないかな?
 女子バスケ部とか女子バレー部とか女子の運動部ならいいけど…それでもマネージャーは…」

「そうか…マネージャーはメインの部員と関わる事あまりないかもしれないって事か」



部員の補佐を主にするのがマネージャー。
関わる事は多いのかもしれないけれどメインの部員の方が一緒に練習し試合をし絆が芽生える事が多いって事。
友達が出来るかもしれないけれど運動系ではなく文系な春日野さんにとってこれは厳しい選択かもしれない。



「わたし…スポーツとか興味ないですし…運動部に入ってもお役に立てるかどうか…」

「うーん、ならおれの紹介する部は全滅かも…ごめんね、春日野さん」

「い、いえ…そんなわたしこそ申し訳ないです…」

「いえいえそんな謝らなくてもいいよ。だって…今、運動部でマネージャー募集してる部活なんてないもん。
 皆マネージャーは足りてるんだって!」

「「「それを早く言えッ!」」」

「えぇぇ!?」



晃さんを言葉の暴力でボコボコにしながら俺達は次の場所へ移ったのだった。





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「さーて今度こそ春日野さんを見学させて部活に入れちゃって友達も作っちゃうよ!」



俺達三人にボコボコにされた晃さんが春日野さんを連れて次に向かった部活。
それは…春日野さんにぴったりに似合いそうな部活動だった。

"文芸部"と書かれた室名札のドアの前に立ち尽くす俺達五人。
そう、次の見学先は文芸部なのだ。



「文芸部にはね、俺達の知り合いがいるから…見学は快く承諾してくれると思うんだけど」

「問題はもう部室に来てるかな?ってところだよね」

「え…?どういう事なんすか?それって…」



俺は普通に引っかかった疑問に思った事を晃さんと朔さんに問うてみる。



「文芸部にはね、俺達の知り合いで尚且つ生徒会に所属してる知り合いがいるんだよ?」

「……生徒会っすか?」



俺の脳裏にあの目つきが悪い俺様系生徒会長が過った。
……思い出したくない、忘れる事にしよう。



「あ…俺達と同級生だよ?高比良先輩じゃないからね?」

「朔さん…俺の心の中で思ってた事を察して答えないでください」

「蓮…そんなに高比良先輩苦手かぁ。まぁ怖く見えるけどいい人だよ」

「人を無理矢理こんな変な部活に入れるような人ですよ?しかも半強制的に脅しみたいな感じで」

「え…?小鳥遊くんって…命令でこの部に…?」

「うん、そうだよ」



俺達の会話に疑問を持ったのか、珍しく春日野さんが会話に入ってきた。
それが嬉しかったのか朔さんは笑顔で答える。
そんな笑顔で答えるような事じゃないんだけど…。



「蓮くんも…まぁ…今考えたら本当に無理矢理だったよね。あの時は…ごめんね?」

「そう思ってるなら退部してもいいんですか?」

「それは許さないよ?」

「ですよねー…」


「途中退部も出来ないなんて…青春部って思った以上に厳しいスパルタ部活なんだねー」


「「!?」」



青春部のメンバーではない声が響く。
男性にしては高いその声の持ち主は俺の真後ろに立っていた。

しかも二人も。



「おお、葉月!悠希!おれお前らに会いに来てたんだ。よかったぁ会えた」



しかも晃さんのお目当てはこの二人のようだ。

ニコニコした笑顔とその高い声が印象的な人と、紫色の髪が似合う一見好青年風なイケメン風な人。
というか後者の人は見た事がある…。



「あ…!晃さんにマイクを投げつけた高比良先輩を必死に止めようとしてた人!」

「えぇ!?な、何その覚え方!?」

「あ…」



やばい。思いついた事を口にすぐ出してしまった。
一応先輩なんだし…失礼だったかもしれない。



「す、すみません。なんだかまたいつもの調子で切り込んじゃいまして…」

「……そ、そう。後輩からいつもどんな扱いされてるの、晃介くん達」

「「「あはは…」」」



苦笑いしながら目をそらす当人達を置いて。
俺が失礼な覚え方をしていた先輩は俺と春日野さんの姿を見て、笑顔を作る。

こ…これは…

俺が苦手な部類な人種だ。まさかこの学園に入って数日でこんなに苦手な人種に会うとは…。
やっぱりこの学園を選ぶべきじゃなかったんじゃ…。

そんなことを考え込む俺を置いてその人は自己紹介をはじめる。



「おれは…生徒会・書記の不二崎悠希です。よろしくね一年生のお二人さん、そしてこっちが…」

「僕は生徒会・会計の諏訪野葉月です。ふじもだけどお互い二年生です、よろしくね」

「あ…よろしくお願いします。俺は…一年の小鳥遊蓮です」

「え、えっと…同じく一年の春日野美桜…です」



お互いに自己紹介を終える。
そしてやっぱり生徒会の人達だった。あの高比良先輩よりも優しそうでいい人達なんだろうけど。
"生徒会"という単語が俺を警戒させる。

それを分かっているのか不二崎先輩は少し困り笑顔を浮かべながら今度は先輩三人に向き直って問いかける。



「んで…晃介くん達はなんでここへ?ここ文芸部前なんだけど」

「それを言うなら悠希もだよ。お前文芸部じゃないだろ?」

「それはそうなんだけど…生徒会に行く前にすわが部室に忘れ物したって言うから…」

「そうそうーペンケース忘れてね、取りに来たの」

「じゃあ今から部活って訳じゃないんだね…朔ちゃん、どうしよっか?」

「葉月くん…文芸部の先輩に部活見学したい人がいるって伝えてもらえないかな?」



部活見学?と疑問で聞き返す諏訪野先輩。
しかし春日野さんを見て察したようで…笑顔で快諾してくれた。
文芸部としても部員が増えるのは嬉しい事なのだろう。



「じゃあ部長に聞いてみるね。ふじは先に生徒会室行っててー長くなりそうだし」

「ほーい」

「よ…よろしくお願いします…諏訪野先輩」

「はーい、紹介くらいなんて事ないからね。ちょっと待っててね」



こうして新しく出会った二年生の先輩。
不二崎先輩は生徒会室へ向かい、諏訪野先輩は目の前の部室へ入っていったのだった――。





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





「ねぇ朔ちゃん。これで本当にいいの?」

「……何が?」

「何が?って…分かってる癖に」



葉月くんが部室に入っていった直後。
勘がいいアイツが俺にこっそりと話しかけてきた。

こういう人が悩んだり迷ってる時にすかさずに入ってくるのが有栖川周という人間なのだ。



「春日野さんをこのまま文芸部に紹介しちゃう事。
 だってこのままじゃ彼女…文芸部に落ち着いちゃうよ?」

「……それが目的だったでしょ?それでいいんだよ」

「なら…オレ達は?青春部はどうなるの?
 春日野さんを青春部に入れるっていうのが一番の策だと思うんだけど…。
 というかそれ以上はもう部員集めるのは厳しいよね?」



確かにもう一年生で部活未所属の生徒はもう皆無。
あとは…部活を掛け持ちする人を探し出すしかないのだが…それも難しい話。

このままじゃ正式な部活として認められなくなり部室も取り上げられるし部費も出ない。



「…………」

「朔ちゃんも約束したよね?来年には正式な部活として青春部は独立させるって」

「したけど…したんだけど…」



俺の中で春日野さんの事がぐるぐるする。
彼女は友達が出来なくてそれでも欲しくて…それを俺達に依頼して来た。

それを俺達は叶えてあげなくちゃいけない。

やっぱり俺は生真面目で融通が効かない人間なのかもしれない。
周は青春部の事を考えている。でもそれじゃ春日野さんの依頼は叶わない。
それが俺の中で引っかかっていて…俺達の都合で巻き込む訳にもいかないんだ。



「…………」

「朔ちゃんならそうやって悩むんだと思ったよ。言えないならオレが全部背負ってもいいけど…」

「周はそうやってまた全部背負って自ら悪者になるんだから…ダメ」

「……でも。時間ないよ?どうするの?」

「…………」



俺はやっぱり答えられない。
その時だった……!!



「またまたやって来てやったぜ!青春部!!」

「「「「!?」」」」



昨日聞いたあの声。
またあの子達、か…。俺の考え事をまた増やす気か、正直もう頭が痛い。





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「九頭竜陸!」

「京ヶ峰理人!」

「渕之上昴!」


「「「我ら…学園生活を楽しみ謳歌する部活…謳歌部ッ!!!」」」


「またお前らかよ」



部室に入っていった諏訪野先輩を待っていた俺達の前に現れたのは、
謳歌部と名乗る渕之上達のあの部だ。

正直昨日も会ったばかりなんだしまだ会いたくもなかったんだけど。
そんな気持ちが正直に出てしまったのか、思い切り口に出ていた。



「小鳥遊蓮、お前がこうしてられるのも今のうちだかんな」

「どういう意味だよ」

「……勝負だッ!小鳥遊蓮!」



ズバッと言い放ち指をさした九頭竜。その指の先には俺。



「は?何の勝負だよ」

「……小鳥遊くんって雰囲気にのらない子なんだね」

「うん。出会った時からそうだよ」



九頭竜の隣にいた京ヶ峰と渕之上が何か言ってるがそんな事はどうでもいい。

"勝負"

この単語に何かいやな予感がするのだがやっぱりそういう時の勘はよく当たるものなのだ。



「謳歌部対青春部!部員…小鳥遊蓮と春日野美桜を掛けて勝負を申し込むッ!」

「は!?」

「……え?」



俺と春日野さんが驚きの声を上げる。
しかし九頭竜は意気揚揚と続けてルールを説明し始める。本当に自由奔放な奴だな。



「勝負は簡単。この学園の生徒会長・高比良結弦先輩の制服のジャケットにバッチを仕込ませてきた。
 そのバッチを先に取って来た方が勝ちだ。勿論高比良先輩にバレたりしたら…俺達がどうなるかは分かってるだろうな!?」

「知るかよ」

「勝った方が小鳥遊蓮と春日野美桜を部に入部させる権利を得る。
 これがルールだ!」

「ちょっと…待って。九頭竜くんだっけ?」

「はい、水無月先輩。何か質問でも?」

「蓮くんはもう青春部の部員のメンバーなんだけど…それは…」

「だって…青春部このままじゃ部員四人で正式な部になんねーじゃないですか。
 それなら俺達謳歌部に春日野さんと入ってもらって部員五人でスタートさせた方がいいでしょ?」

「それはそうかもだけど…春日野さんの意向は?」

「春日野美桜の意向を尊重させたかったら…やっぱり勝つしかないんじゃないっすかね?
 依頼を解決出来るのかは…勝負に関わるって事っすよ」



つまり謳歌部が勝てば俺と春日野さんは謳歌部に入部になるのだけど、
青春部が勝てば春日野さんの自由にしてもいいって事なのか…。

というか…。



「なんだよその謳歌部中心で有利な勝負。それにのれって言われてはいそーですかってのる奴なんていないだろ?」

「勝負にのらなかったら…高比良先輩のジャケットにイタズラしたのは青春部だって告げ口します☆」

「……渕之上」

「えへへ☆」

「えへへじゃねーよ」



高比良先輩の恐ろしさを知ってか知らずか…渕之上が言い出したその告げ口に青春部の四人が凍る。
俺もあの人の恐怖を知ってるけど…やっぱり先輩三人の方が恐ろしさを知ってるのか顔面蒼白になっているような。



「……春日野さんはそれでいい?何だかもう避けられない戦いになってしまってるんだけど」

「……あ、は…はい…」



晃さんがまだ青白い顔で春日野さんに問うてみる。
が返ってきたのは思いもよらない返事だった。



「なんだかわたし…楽しくなっちゃってて……勝負見てみたいなって思ったんです。迷惑でしたか?」



思わぬ言葉に固まる。
まさかそんな返しが来るとは思ってなかったからだ。

楽しいと思ってくれていた?この状況化で?自分の入る部活が勝手に決まってしまいそうな中で?


でも…

それは…


俺も少し


思っていた事だったから


今がちょっと"楽しい"って。



「分かりました」



俺が青春部を代表して一歩前に出る。

そして謳歌部の代表である九頭竜を見据えて。



「その勝負のる。絶対青春部が勝ってみせますんで…先輩方それに春日野さんは安心して観ててください」

「お前ならそう言ってのってくれると思ってたぜ。勝負だ青春部!!」



俺と春日野さんのこの先の部活の未来を賭けて

こうして青春部対謳歌部の幕が開けた――。



To Be Continued...
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青セン9話でした。
まだまだ続く春風篇。実はもうそろそろ春風篇も大詰めかな?

青春部VS謳歌部が勃発です。
やはりライバル関係ですからねこういう戦いがないとライバルじゃないですし。という訳でそんな展開になっちゃいました、宣戦布告ですね。
そして美桜の部活探しも…ですが中々うまくいかないようで。文芸部きっかけでやっと蓮と美桜が悠希と葉月が出会う展開も作れて安心です。そろそろ会わせないとなと思ったので。
そんな訳で登場人物がかなり多い回になっちゃいました。

実は色々と伏線も詰めてみたり。
どこかとかは言いませんがかなりあとの伏線もあったりするので探してもらえると嬉しいです。
朔真と周の会話も実は結構重要かな?朔真の性格と周の性格がよく出てると思ってますし。

さて次回は青春部VS謳歌部から始まります。
次回もよろしくお願いしますね。

ここまで読んでくださりありがとうございました。感想あればコメントくださると嬉しいです♪